【視察報告】震災復興から地域の足へ――大船渡線BRTに学ぶ、持続可能で災害に強い公共交通~横浜市へどう生かすか~

こんにちは。柏原すぐる(横浜市会議員・鶴見区選出)です。

以下、視察報告です。常任委員会としての正式な報告書は別途作成されますので、個人的なものです。

視察日:令和8年7月14日(火)
視察先:岩手県大船渡市議会
視察テーマ:BRTの運行事業について

視察に関する詳細資料はこちらです。

はじめに

横浜市会まちづくり委員会の行政視察として、岩手県大船渡市議会を訪問し、JR大船渡線BRTの導入経緯、運行状況、利用実態、災害時の対応、将来に向けた課題などについて説明を受けました。

BRTとは「Bus Rapid Transit」の略で、バス高速輸送システムを意味します。

大船渡線BRTは、東日本大震災によって甚大な被害を受けた鉄道路線の代替交通として導入されました。旧鉄道敷を活用した専用道と一般道路を組み合わせることで、通常の路線バスよりも高い定時性を確保しながら、復興後のまちの形や地域の需要に応じて、駅や経路を柔軟に設定できることが特徴です。

今回の視察では、BRTが単なる「被災した鉄道の代替手段」ではなく、人口減少、高齢化、運転士不足、災害対応といった課題を抱える地域において、公共交通を持続させるための一つの選択肢となっていることを学びました。

東日本大震災により鉄道が全線不通に

JR大船渡線は、一ノ関駅から気仙沼駅を経由し、大船渡市の盛駅までを結ぶ鉄道路線として運行されていました。

しかし、平成23年3月11日に発生した東日本大震災により、沿岸部の気仙沼駅から盛駅までの区間が甚大な被害を受け、鉄道による運行ができなくなりました。

地域には鉄道による復旧を望む声も少なくありませんでした。

一方、復興まちづくりに伴って住宅地や市街地が高台へ移転する中で、従来の鉄道路線をそのまま復旧しても、復興後のまちの形に対応できない可能性がありました。

さらに、人口減少が続く中で、鉄道を将来にわたって維持していくための費用も大きな課題となりました。

視察時の説明では、鉄道を復興後のまちの位置に合わせて移設して復旧する場合、約400億円規模の事業費が必要になるとの試算が示されたとのことです。

BRTによる仮復旧から本復旧へ

平成24年7月、JR東日本からBRTによる仮復旧が提案され、平成25年3月から運行が開始されました。

その後も、鉄道による復旧とBRTによる本復旧の双方について、JR東日本、国、岩手県、沿線自治体などによる協議が重ねられました。

大船渡市では、市民や市議会の意見も聞きながら検討を進め、平成27年12月にBRTによる本復旧を受け入れる方針を決定しました。

BRTを受け入れた理由は、鉄道よりも建設費や維持管理費を抑えられるということだけではありません。

復興後の住宅地や公共施設、医療機関などに合わせて新たな駅を設けることができ、地域の要望に応じた柔軟な交通体系を構築できることも、大きな判断材料となりました。

「鉄道を元に戻すこと」ではなく、「復興後の地域で持続的に移動手段を確保すること」を重視した判断であったと受け止めています。

鉄道時代の1日19本から、現在は71本に

BRTの運行本数やダイヤは、運行主体であるJR東日本が設定しています。

BRTによる復旧を受け入れる際には、朝夕はおおむね20分から30分間隔で運行するとともに、三陸鉄道や新幹線などとの接続利便性を高めていくとの説明があり、現在も基本的にその内容が維持されています。

気仙沼駅から盛駅までの運行本数は、震災前の鉄道が1日19本だったのに対し、現在は1日71本となっています。このうち、気仙沼市と大船渡市の間を直通する便は24本です。

通勤や通学に配慮したダイヤが設定されているほか、「三陸・大船渡夏まつり」など、多くの利用が見込まれる際には、大船渡市からJR東日本へ要請し、臨時便を運行することもあるとのことでした。

鉄道と比較すると、1便当たりの輸送力は小さくなりましたが、運行本数を大幅に増やすことで、日常生活の中で利用できる機会を確保しています。

専用道と優先信号で定時性を確保

BRTはバス車両を使用していますが、単に一般道路を走行する路線バスではありません。

大船渡市内の対象区間では、旧鉄道敷を活用した専用道が整備され、一般道路との交差部にはBRTが優先的に通過できる信号の仕組みが導入されています。

これにより、一般道路の渋滞による影響を受けにくく、定時性を確保しています。

また、車両にはGPSが搭載され、バスロケーションシステムによって現在位置や運行状況を確認できる環境も整備されています。

市内には9つのBRT駅があり、このうち5駅はBRTへの転換後に新たに設置されました。

復興後の住宅地や医療機関、公共施設などの位置に応じて駅を増設できたことは、鉄道にはないBRTの柔軟性です。

利便性が向上した一方、所要時間などに課題

鉄道時代と比較すると、BRTには利便性が向上した部分と、低下した部分の双方があります。

運行本数や駅数が増えたことにより、利用者が乗車できる機会は増えました。また、一般道路へ乗り入れることができるため、病院や商業施設など、生活に必要な場所へ近づけやすくなりました。

一方で、駅や停留所が増えたことなどにより、鉄道時代と比べて所要時間が長くなっています。

質疑の中では、鉄道時代に比べて、区間によっては10分程度所要時間が延びているとの説明もありました。

また、バス車両特有の揺れや乗り心地を気にする利用者もいるとのことです。

大船渡市では、運行本数や駅数の増加によって総合的な利便性は向上したと評価する一方、利用者から寄せられる所要時間の短縮や速達性の向上に関する要望を、岩手県を通じてJR東日本へ伝えています。

利用者数は鉄道時代末期の約半分

令和6年度の気仙沼駅から盛駅までの平均通過人員は、1日1キロメートル当たり219人となっています。

新型コロナウイルス感染症の影響によって一度大きく減少しましたが、その後は回復傾向から横ばいで推移しています。

一方、平均乗車密度は鉄道時代末期と比較して、約半分の水準となっています。

質疑では、BRTへの転換によって利用者が他の交通手段へ移ったのかを確認しました。

大船渡市からは、BRTへの転換だけが利用者減少の原因ではなく、沿線人口そのものの減少や、自家用車への移行が大きいと考えられるとの説明がありました。

沿線を運行する他の路線バスでも利用者が減少していることから、BRTだけの問題ではなく、人口減少と自家用車依存という地域交通全体の課題であると考えられます。

高校生の約2割が通学に利用

大船渡市が気仙管内の高校4校を対象に実施した公共交通利用実態アンケートでは、回答した高校生の約2割が、通学にBRTを利用していました。

アンケートは生徒1,029人を対象に実施され、531人が回答しています。

地方部では、高校生や自動車を運転できない高齢者にとって、公共交通がなくなることは、通学や通院そのものが困難になることを意味します。

公共交通を評価する際には、利用者数や収支だけではなく、教育、福祉、生活保障という観点から、その社会的役割を考える必要があります。

利用者の評価と市民全体の評価には差がある

視察では、BRTに対する住民の評価についても説明を受けました。

JR東日本が令和5年度に実施した調査では、運賃、運行本数、スピード、安全性、快適性、車両設備などについて、8割以上の方が「満足」または「不都合はない」と回答しています。

一方、大船渡市が令和7年度に実施した市民意識調査では、「市内を走るBRTが利用しやすい」との設問に対し、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した割合は27.6%でした。

また、市が実施した公共交通利用実態アンケートでは、BRTに「満足」「やや満足」と回答した方は約3割でした。

質疑では、この評価の差についても確認しました。

JR東日本の調査は、実際にBRTを利用している方が主な対象である一方、市民意識調査は、日頃BRTを利用していない方も含む市民全体を対象としています。

実際の利用者からは一定の評価を得ている一方、市民全体から見た使いやすさや、日常の移動手段としての浸透には、なお課題があることがうかがえます。

満足度の数字だけを見るのではなく、誰を対象に、どのような方法で行われた調査なのかを確認することが重要です。

鉄道、BRT、路線バスを一つのネットワークとして考える

大船渡市では、BRTだけで地域交通を完結させるのではなく、三陸鉄道や路線バスとの接続を重視しています。

路線バスの運行事業者も、JR大船渡線BRTや三陸鉄道を地域の幹線交通と位置づけ、そのダイヤを踏まえて運行時刻を調整しています。

一方、人口が少なく、一般的な路線バスでは対応が難しい地域もあります。

質疑では、福祉施設や社会福祉協議会などが所有する車両を活用し、地域の方が運転や添乗に関わる移動支援の取組についても説明がありました。

こうした取組では、一般のバスやタクシーのように自由に運賃を設定することはできません。

燃料費や保険料などの実費をどのように負担するのか、利益を生まない形でどのように制度を設計するのかが課題となっています。

BRT、鉄道、路線バス、デマンド交通、地域主体の移動支援を組み合わせ、地域全体で移動手段を確保していくことが求められています。

災害時に一般道路へ避難・迂回できる強み

BRTの大きな特徴の一つが、専用道だけでなく一般道路も走行できることです。

鉄道の場合、津波警報などが発令された際には列車を停止させ、乗客を徒歩で線路外へ避難させなければならない場合があります。

一方、BRTは車両に乗ったまま専用道から一般道路へ出て、高台などへ避難することができます。

令和8年4月20日に三陸沖地震に伴う津波警報が発令された際には、大船渡市内で運行していた2台のBRTが一般道路を走行し、高台にある大船渡温泉まで避難しました。

また、大規模災害によって専用道が使用できなくなった場合にも、国道などを利用して迂回運行できる可能性があります。

質疑では、一般道路を走ることによって事故が増えていないかという点についても確認しました。

市からは、BRT化後に特に目立った事故の増加は把握していないとの説明がありました。

一方で、一般車両が誤ってBRT専用道へ進入した事例はあるとのことで、専用道の表示や安全管理については、継続的な対策が必要です。

平時の定時性と、災害時の避難・迂回の柔軟性を両立できることは、BRTの大きな強みです。

自動運転の可能性と課題

JR気仙沼線BRTの一部区間では、令和8年5月からレベル4の自動運転が始まったとの説明がありました。

運転士不足が全国的な課題となる中、自動運転は、地域公共交通を将来にわたって維持するための重要な技術です。

一方、大船渡線BRTでは、専用道だけでなく、陸前高田市内などで一般道路を走行する区間があります。

BRTになったことで、病院や商業施設などへ柔軟に乗り入れられるようになった反面、一般道路へ出た際に運転士が必要となれば、自動運転による省人化の効果は限定的になります。

また、自動運転車両を導入して運行本数を増やすとしても、それに見合う利用需要があるのか、自治体の費用負担が発生する場合にどこまで対応できるのかを検討しなければなりません。

新しい技術を導入すること自体を目的とするのではなく、運行経路全体を通じて、利便性や持続可能性が本当に高まるのかを考える必要があります。

市の直接的な運行負担はないが、利用促進は地域の課題

大船渡線BRTはJR東日本が運行しており、大船渡市には直接的な運行経費や人的負担はありません。

JR東日本からは、BRTによる本復旧を決定する際、復興に貢献する持続可能な交通手段として、今後も責任を持って運行するとの説明があったとのことです。

しかし、利用者が減少し続ければ、将来的な運行サービスに影響が生じる可能性は否定できません。

市としても、JR東日本に任せるだけではなく、通勤・通学での利用促進、観光との連携、イベント時の臨時運行、市民への情報発信などに取り組む必要があります。

公共交通を将来に残していくためには、行政や交通事業者だけでなく、地域住民を含めた関係者が一体となり、「地域の交通を地域で支える」という意識を共有することが重要であるとの説明が印象に残りました。

今回の視察・質疑応答から見えてきた、横浜市に生かすべき視点

大船渡市と横浜市では、人口規模、都市構造、鉄道や道路の整備状況が大きく異なります。

そのため、大船渡線BRTの仕組みを、そのまま横浜市に導入できるわけではありません。

一方、人口減少、高齢化、バス運転士不足、交通事業者の経営環境の悪化、災害への備えといった課題は、横浜市にとっても決して無関係ではありません。

今回の説明や質疑応答から、横浜市の今後の地域交通を考える上で、次のような視点が見えてきました。

交通手段を残すことではなく、市民の移動を守る

大船渡市では、鉄道による復旧を望む声がありながらも、復旧費用、人口減少、復興後のまちの形などを総合的に検討し、BRTによる本復旧を選択しました。

ここから学ぶべきことは、鉄道やバスといった特定の交通手段を維持すること自体を目的にするのではなく、市民が通勤、通学、通院、買い物を続けられる移動環境を確保するという視点です。

横浜市でも、既存の路線バスだけで対応することが難しい地域については、オンデマンド交通、地域交通、福祉輸送、タクシーなどを組み合わせ、地域の実情に合った移動手段を考えていく必要があります。

利用者減少の背景を丁寧に分析する

大船渡線BRTの平均乗車密度は、鉄道時代末期と比べて約半分になっています。

質疑では、BRTへの転換によって利用者が他の交通手段へ移ったのかを確認しましたが、沿線人口の減少や自家用車への移行が大きな要因と考えられているとのことでした。周辺の路線バスについても、同様に利用者が減少しています。

公共交通の利用者が減った際には、単に「路線が使いにくいから」と結論づけるのではなく、人口構造、目的地の変化、自家用車の利用状況、通勤・通学先の変化などを分析することが重要です。

横浜市でも、利用実績だけでなく、「なぜ利用されていないのか」「どのような改善があれば利用されるのか」まで把握する必要があります。

利用者の評価と市民全体の評価を分けて捉える

大船渡線BRTでは、実際の利用者を対象としたJR東日本の調査では8割以上が一定の評価をしている一方、市民全体を対象とした調査では、「利用しやすい」とする回答が3割前後にとどまっていました。

質疑を通じて、調査対象の違いによって結果が大きく異なることが確認できました。

実際に利用している方の満足度が高くても、利用していない方から見れば、駅までの距離、目的地とのずれ、乗り継ぎ、運行時間などに課題がある可能性があります。

横浜市においても、利用者アンケートだけでなく、利用していない市民の理由や潜在的な需要を把握し、交通政策に反映することが重要です。

幹線交通と地域交通を一体で考える

大船渡市では、BRTを地域の幹線交通として位置づけ、三陸鉄道や路線バスが、そのダイヤに合わせて運行時刻を調整しています。

また、路線バスでは対応が難しい地域では、福祉施設などの車両を活用した地域主体の移動支援も検討されています。

横浜市でも、鉄道、路線バス、地域交通、オンデマンド交通を個別に考えるのではなく、駅や主要施設を中心とした一つの交通ネットワークとして設計することが重要です。

特に、駅やバス停までの移動が難しい方をどのように幹線交通へつなぐかという「最初と最後の移動」の確保が課題となります。

公共交通を地域全体で支える意識を育てる

大船渡市からは、公共交通を将来に残すためには、行政や交通事業者だけでなく、地域住民を含めた関係者が一体となって取り組むことが重要であるとの説明がありました。

利用者が減少する中では、公共交通を「誰かが維持してくれるもの」と考えるだけでは、持続可能性を確保できません。

横浜市でも、公共交通の役割や運行コストを市民と共有し、地域ごとに必要な移動手段をともに考える取組が必要です。

おわりに

大船渡線BRTは、東日本大震災によって失われた鉄道の代替交通として始まりました。

しかし現在では、運行本数の増加、新たな駅の設置、病院や市街地への柔軟なアクセス、災害時の避難や迂回など、鉄道とは異なる価値を持つ地域公共交通として定着しています。

一方で、利用者の減少、所要時間、乗り心地、一般道路を含む自動運転の難しさなど、課題も明確になっています。

重要なのは、BRTを鉄道より優れた交通手段、あるいは劣った交通手段と単純に評価することではありません。

地域の人口、まちの形、移動需要、災害リスク、将来の維持費を踏まえ、その地域に合った交通体系を選択し、利用者の声を聞きながら継続的に改善していくことが重要です。

今回の視察で得た知見を、横浜市におけるバスネットワーク、郊外部の移動支援、オンデマンド交通、自動運転、災害に強い交通体系の検討に生かしてまいります。

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最後までご覧いただきありがとうございました。

日本維新の会横浜市会議員団・無所属の会

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