家族の元へ元気に帰ることが何より大事~東京・八重洲鉄骨落下事故を受けた所感~

こんにちは。柏原すぐるです。

今は横浜市会議員のバッジを預かっていますが、約5年に渡ってゼネコンの現場監督をやって、その後は8年ほど建物を発注者する側で様々な建設プロジェクトに関わってきた立場から、今日はこちらの事故を受けた所感を記しておきたいと思っております。

何よりもまず、お亡くなりなられた方や怪我を負った方に対し、謹んでお悔み申し上げると共に、哀悼の意を表します。

現段階では、33歳と43歳の方が死亡した報じられています。

ご家族がおられます。いつものように帰りを待っていた子どもたちやパートナーがいたかもしれない。命を失った喪失感に悲しむご両親やご友人、ご同僚の方もきっといたことでしょう。

建設や土木現場における死亡事故は減ってきているとはいえ、尊い命が軽視されることはあってはならない。

そして、いつも危険と隣り合わせであるこうした職場で働く方々の「手」によって、私たちが暮らす場、働き遊ぶ場ができていることを、ぜひ少しでも想像してほしいと思っています。

八重洲ライブカメラが捉えた映像は衝撃的です。

また、建設業界の問題に留まらず社会の構造に注目したこちらの投稿にも注目が集ったようです。

これを読み、私なりにも経験を通じて見解を記したいと考えました。

なぜ事故は起きたのか?(仮説)

まず、なぜ事故は起きたのか?ですが、結論から言えば、分かりません。

とはいえ、私自身も新築鉄骨造の建物を2件、元請会社の鉄骨工事担当として施工計画や現場に安全管理に関わっていますので、分かる範囲で記したいと思います。

現場は大手ゼネコン2社のJVとのことですので、安全のエキスパートがそれぞれの社内におりますし、工事の計画段階で未然に事故を防ぐために鉄骨建て方(組み立て方)の作業手順書が必ず作成されています。

特に重大災害に繋がる鉄骨工事は現場責任者である現場所長以下、本店の安全担当者も加わって工事計画のための検討会議を繰り返します。この会議には実際に鉄骨の吊り上げやボルトによる鉄骨の部材同士の固定などを行う鳶職を供給する下請け会社や鉄骨の加工を行って納品するファブ(鉄骨製作工場)、鉄骨に取り付ける安全装置を提供するリース会社といった関係する下請け工事会社の担当者も必ず出席します。

また、これらの検討結果を踏まえて、製作する鉄骨に対して吊り上げのためのフックなどの仮設的な機能も鉄骨製作図に反映していきますので、鉄骨の製作発注前に安全な作業手順の確認が行われるなど、いわゆる在来の鉄筋コンクリート造など以上に、緻密に計画されるのが、鉄骨工事です。

そのため、アプローチとしては、作業手順書通りに作業ができていたかを中心に確認がなされると考えられます。

その上で、そもそもの計画に問題はなかったかという検証や決められた手順通りでなかったかどうかが、残された現場の状態や生存者の証言から判断されるものと思います。

可能性としてあるのは、本締めと言われる最終的なボルトの固定作業の前の仮止めの状態で、ボルトの本数がある接合部で少なく、その接合部において生じるせん断力にボルトが負けて破断し、その部分が落下したことで、その他の接合部でも同様の破断が生じて、仮組み状態であった鉄骨梁すべてが落下したという様なケースでしょうか。

特に破断理由は仮説に過ぎませんが、このように想像します。

事故が起きる業界の構造的な背景は?

紹介したX投稿には、「投資家や金融機関にデベロッパーが乗っ取られ」「工期短縮」の圧力が強まったことで、より一層現場が疲弊しているという表現がありました。

私自身デベロッパーであり建設会社でもある会社にいたことから、「乗っ取られ」というのはやや突飛な表現だと思うのと、因果関係は定かではないと感じます。

日本のデベロッパーは元来いわゆるコーポレートファイナンスで不動産開発を行ってきましたが、財務状況によっては黒字倒産するなど、リスクと隣り合わせであるため、企業が終える負債の総量が市場のキャパシティを決めていたとも考えられます。

そこに、いわゆるプロジェクトファイナンスの手法が用いられることによって、例えば海外の年金基金運用会社から投資を受け、特定目的会社(SPC)を通じて、開発事業が行われることにより、新たに不動産市場が開けたということは、決して悪いことではありません。

ここに日本の金融機関がレンダーとして参画する構図は今は当たりまえの状況ですし、日本の地方公共団体や国の機関、あるいは企業が持て余した建築物をSPCを通じて購入し、バリューアップしてから不動産投資信託に売却するなどの手法は、新たなプレイヤーによって、経済性の確保と価値向上が図られているという実態があります。

確かに工期は短縮された方が、リターンが早くなりますし、融資の利子も減りますが、それは従来型のファイナンスでも一緒なわけです。

むしろかつての方が、工期圧縮のためなら、何でもあり。今よりも自動化機械化がなされていない中で、地方から出稼ぎの方が飯場に寝泊まりして、人力のよる作業(バックホウではなくて、手掘りするなどの作業)を毎日長時間続けるということは戦後の日本で多く見られたのではないでしょうか。

なお、私がいた外資系企業は発注者でありながら「安全」へコミットメントに非常に力を入れていたことも付しておきます。

建設業界の働き方は変わるのか?

週休2日の確保が国交省が旗振り役となって、国や地方公共団体が発注する工事などにおいて「原則週休2日適用」とし、インセンティブを与えるなどして普及が進められています。

また、横浜市議会のおいても、先日の政策・総務・財政委員会においては、横浜美術館改修工事おける同インセンティブ適用(週休2日の達成率による労務費等の上乗せ)による増額契約の議案が審議された際に、多くの委員から下請け会社へその増額分が渡っているのか、あるいは職人さんは他の現場に行かずに本当に休んでいるのか、日当のような人は単に給与が減っていないかなどの課題認識が示されるなど、理解が進んでいることは有難く思ったことが記憶に新しいです。

横浜市週休2日制確保モデル工事・適用工事

https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/zaisei/kokyo/kaikaku/shukyu2.html

一方で、適切な工期設定の問題、民間発注の工事における規制の在り方など課題はあります。

建設労働者の賃金はちゃんと上がってるのか?

こちらは公共工事を発注する工事費の積算根拠となる設計労務単価の推移です。

民間の取引においても一定程度、ベンチマークにされているものと思いますが、私の経験上はこの単価によらず十分な単価設定をされている建設会社がある一方で、長年の取引で単価が据え置かれたまま取引が続いているような場合もそれぞれあると認識しています。

発注する方としては、当然安いに越したことはないのですが、建設業界が疲弊すれば、当然自分たちに返ってくることを想像しなくてはなりません。

その意味において、先に挙げたSPC等の短期的な資本合理性が追及された仕組みが、長年に渡って蓄積された職人さんの技術や建設会社の施工能力を安く刈り取っているようにも感じるのは、同感できる部分がありますし、やはり適切に賃金が増え、工事単価に反映され、発注者にしっかりと負担をしてもらうことも重要だと認識しています。

労働供給が建設投資の足かせになる時代へ。公共施設総合マネジメント計画でサプライ側への視点も入れるべき。

さて、国交省は全国自治体に対して、さまざまな法令や条例に紐づけて増えてきた公共施設の総合的な計画、長期的な統廃合を含む更新や建て替え、修繕などの計画を策定するように要求し、個別計画も策定されているところです。

財務上も影響が大きいことから、建物の更新時期の調整や長寿命化等による建設投資額の平準化などが図られています。

しかしながら、その時代に建設のマーケットから、建設需要に応えるだけの調達が可能か、言い換えれば、建設サービスの供給が可能かという検証が為されていない点が問題だと思っています。

こちらは国交省の「建設業を巡る現状と課題」のスライドです。見ての通り、担い手は減るばかりです。

建設業を巡る現状と課題

https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001610913.pdf

そして、建物は増えるばかり。建物あたりの建設業就業者は減るばかりです。

もちろん技術進化により省人化されるものもありますが、労務集約型の建設業には非常に厳しい状況ですし、介護や他の産業でも人手不足なわけですから、大きな大きな課題です。

今回は私自身が関わってきた建設業において、身をもって感じたことや今後の課題感を共有する目的で綴らさせていただきました。

その上で、私自身がプレイヤーとして何ができるのかは、問を立てながら仕事をしていきたいと思います。

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最後までご覧いただきありがとうございました。

柏原すぐる

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