【視察報告】岩手県紫波町「オガールプロジェクト」に学ぶ、公民連携と自治体経営のあり方~横浜市どう生かすか~
こんにちは。柏原すぐる(横浜市会議員・鶴見区選出)です。
以下、視察報告いたします。常任委員会として正式な報告書は別途作成されますので、個人的なものです。

視察資料
はじめに
令和8年7月15日、横浜市会まちづくり常任委員会の視察で、岩手県紫波町の「オガールプロジェクト」を訪問しました。
オガールプロジェクトは、JR紫波中央駅前に広がっていた約10.7ヘクタールの町有地を、公民連携、いわゆるPPPの手法によって整備してきた事業です。
図書館や役場庁舎などの公共施設に加え、ホテル、飲食店、医療施設、スポーツ施設、保育園、住宅などを一体的に配置し、施設単体ではなく、エリア全体の価値を高めるまちづくりが進められています。
当日は、プロジェクトが始まった背景や事業スキームについて説明を受けた後、オガールプラザ、オガールベース、スポーツ施設などを見学しました。
「オガール」という名称は、紫波地域の方言で「成長」を意味する「おがる」と、フランス語で駅を意味する「Gare」を組み合わせたものです。紫波中央駅前を、町の未来を育てる出発点にしたいという思いが込められています。
紫波町の規模と立地特性
岩手県は、北海道に次いで全国で2番目に広い面積を有する県です。
その中で紫波町の人口は約3万2,000人です。人口約30万人の鶴見区と比べると、おおむね10分の1の規模です。
一方で、紫波町は県庁所在地の盛岡市と花巻市の間に位置し、JR東北本線によって両都市と結ばれています。
事前の商圏調査では、周辺30キロ圏内に約60万人の人口がいることも確認されていました。
町内人口だけではなく、周辺都市との位置関係、鉄道や道路の交通条件、商圏人口まで踏まえて事業の可能性を判断したことが、プロジェクト成立の重要な背景にあります。
オガールは、単に「人口3万人の町がPPPで成功した事例」ではなく、紫波町特有の立地条件と市場性を踏まえて構築された事業と捉える必要があります。
未利用だった駅前町有地の再生
現在のオガールエリアには、多様な施設と公共空間が整備され、多くの人が行き交っています。
しかし、事業が始まる前は、駅前の広大な町有地が長期間未利用のまま残されていました。
当初は、庁舎や図書館、町民ホールなどを整備する構想もありましたが、財政状況の悪化などを背景に、従来型の公共事業としての計画は凍結されました。
こうした中、町が全てを直接整備するのではなく、民間の資金や知恵を活用しながら、必要な公共機能と民間事業を組み合わせる公民連携へと方向転換しました。
平成21年には「紫波町公民連携基本計画」を策定し、町有地を活用しながら、財政負担を抑え、公共施設整備と地域経済の活性化を両立させる方針を明確にしました。

施設ごとに異なる公民連携手法
オガールプロジェクトでは、一つの巨大な施設を行政が一括して整備したわけではありません。
エリア内には、主に次の施設があります。
・岩手県フットボールセンター
・図書館や地域交流センターなどが入る「オガールプラザ」
・ホテルやバレーボール専用体育館などが入る「オガールベース」
・紫波町役場庁舎
・医療、教育、福祉、商業機能などが入る「オガールセンター」
・オガール保育園
・木質チップを活用したエネルギーステーション
・住宅地「オガールタウン」
これらは、PFI、定期借地、民間事業、官民複合施設、公設民営など、施設の性格や収益性に応じて異なる手法で整備されています。
施設ごとに、
「誰が整備するのか」
「誰が資金を調達するのか」
「誰が保有し、運営するのか」
「どのような収入で維持するのか」
「どの主体がリスクを負うのか」
を整理していることが特徴です。
建物を先につくらない「逆アプローチ」
今回の視察で特に印象に残ったのが、「逆アプローチ」と呼ばれる不動産開発の考え方です。
一般的な開発では、まず事業計画を立て、建物を設計・建設した後に、テナントや利用者を募集することがあります。
しかし、この方式では、完成後にテナントが集まらず、空き床が生じたり、想定した賃料収入を確保できなかったりするリスクがあります。
オガールでは、まず入居を希望する事業者を探し、負担可能な賃料水準を確認します。
その賃料収入を基に、借入可能額、建設費の上限、必要な床面積、建物の仕様を決めていきます。
つまり、
「どのような建物を建てたいか」
ではなく、
「どのような事業なら継続できるか」
から逆算して建物をつくっています。
事前にテナントを確保し、開業時の入居率100%を目指すことで、空き床や収入不足のリスクを抑えています。

建設費を抑え、必要な価値に投資する
施設内には、天井を張らず、配管や設備を見せる仕上げにしている箇所もありました。
これはデザイン上の工夫であると同時に、不要な内装工事を減らし、建設費を抑えるための取組です。
一方で、全てを安くつくればよいという考え方ではありません。
断熱性能、建物の使いやすさ、地域の景観、施設間の統一感など、長期的な価値につながる部分には必要な投資をしています。
要望を積み上げて建設費を増やすのではなく、先に収入や負担可能額を定め、その範囲で必要な機能を選択する考え方です。
図書館を核とした「オガールプラザ」
平成24年に開業したオガールプラザは、プロジェクトを象徴する官民複合施設です。
図書館、地域交流センター、子育て応援センターなどの公共機能と、飲食店、医療機関、学習塾、事務所などの民間機能が入っています。
図書館などの公共施設を利用する人が周辺の店舗やサービスを利用し、民間施設を目的に訪れた人が図書館や交流スペースにも立ち寄る仕組みです。
公共施設と民間施設を一体的に配置することで、双方の利用者が行き交い、建物やエリア全体の価値を高めています。
オガールプラザの情報交流館は、令和5年度に約31万2,000人が利用しています。人口約3万2,000人の町であることを考えると、町民の日常利用に加え、町外からも人を呼び込む施設となっています。
大規模ホールをつくらなかった判断
現地説明では、当初構想されていた大規模な町民ホールを整備せず、日常的に幅広い用途で使える空間を設けたことも紹介されました。
大規模ホールを整備すれば、建設費に加え、維持管理費も大きくなります。
年に数回の催しに合わせて施設規模を決めると、日常的には使われない空間を抱えることにもなります。
そこで、学習、会議、発表、練習、地域活動などに日常的に利用しながら、必要に応じて一定規模の催しにも対応できる空間としています。
最大需要に合わせた専用施設ではなく、日常的に使われる柔軟な空間を重視した判断です。

スポーツと宿泊を組み合わせる
オガールベースには、ビジネスホテル、飲食店、事務所に加え、日本初のバレーボール専用体育館とされる「オガールアリーナ」が整備されています。
スポーツ施設を単独で整備するのではなく、ホテルや飲食店と組み合わせることで、合宿、大会、研修などの需要を取り込み、地域内での滞在時間や消費を増やしています。
また、一般的な多目的体育館ではなく、バレーボールに特化することで、全国から選手やチームを呼び込む明確な差別化を図っています。
町民利用だけでなく、町外から目的を持って訪れる人を生み出すことが、事業性を支えています。
キーマンと専門人材の存在
オガールプロジェクトを見て感じたのは、制度や手法だけでは、まちづくりは進まないということです。
町長のリーダーシップ、公民連携を担当する町職員、民間側で不動産開発を担う人材、金融機関から資金を調達する専門家など、それぞれの分野にキーマンがいました。
また、「オガール・デザイン会議」には、建築、都市デザイン、不動産など、各分野の第一線で活躍する専門家が参加しました。

説明では、交通費や宿泊費、限定的な手当で協力した有識者もいたとのことです。
制度を導入すれば、自動的にこうした人材が集まるわけではありません。
プロジェクトの理念や責任者への信頼、専門家が関わりたいと思える魅力も、成功を支えた要素であると感じました。
約200人の町職員が自ら学び、つくった
今回、特に驚いたのは、約200人規模の町役場が、複雑なPPP事業の計画や発注条件を、外部へ全面的に委ねず、自ら考えながら組み立てたことです。
図書館、庁舎、スポーツ施設、官民複合施設などを整備する際には、施設ごとの要求水準書や募集要項、契約条件を作成する必要があります。
PPPやPFIでは、官民の役割分担、サービス水準、リスク負担、物価変動、事業者撤退時の対応、金融機関との関係、完成後のモニタリングなど、専門性の高い事項を整理しなければなりません。
紫波町では、先進自治体から仕様書や要求水準書を取り寄せ、職員自身が調査し、学びながら計画や発注条件をつくったとのことです。
例えば、什器一つとってみても、性能を規定するのは簡単ではありません。
公民連携基本計画の策定に深く関わった当時の職員2人が、現在は町長と副町長を務めていることも象徴的でした。
自ら悩み、調べ、事業を形にした経験が、個人の知識だけでなく、町の組織能力として蓄積されているのだと感じました。

外部委託と職員能力のバランス
横浜市でPFI事業などを進める際には、基本計画の策定段階から、シンクタンクや専門コンサルタントが公共側のアドバイザーとして入ることが一般的です。
事業者の公募、要求水準書の作成、契約、実施段階のモニタリングまで、外部専門家が継続的に支援する場合もあります。
私自身、民間事業者側でPPPに関わった経験があり、複雑な法務、金融、技術、契約条件を扱う上で、専門家の助言が必要であることは理解しています。
一方で、計画の考え方や事業条件の作成まで全てを外部へ委ねてしまうと、発注者である行政内部に知識や経験が残りにくくなる可能性があります。
外部委託か、職員による内製かという二者択一ではなく、
・行政が自ら判断する部分
・専門家の支援を受ける部分
・行政と専門家が共同でつくる部分
を見極めることが必要です。
事業の段階や難易度に応じて手法を切り替えながら、最終的な判断能力と知識を行政内部に残すことが重要だと感じました。
約200回の住民説明
オガールプロジェクトは、最初から順調に進んだわけではありません。
当初は反対意見や不安もあり、住民への説明や意見交換を合計約200回行ったとのことです。
人口約3万人の町で約200回です。
単純に人口比で置き換えれば、人口約30万人の鶴見区では約2,000回に相当します。
もちろん、自治体の規模や地域構造が異なるため単純比較はできませんが、住民の疑問や反対意見に向き合い、説明を重ねた労力は相当なものです。
優れた事業計画だけでは、まちづくりは実現しません。
反対意見を排除するのではなく、何度も説明し、必要に応じて内容を修正しながら、地域との信頼関係をつくる過程が不可欠です。
施設ではなく、エリア全体を経営する
オガールでは、施設を一つずつ整備するだけでなく、エリア全体の価値を高めることが重視されています。
図書館、広場、スポーツ施設、ホテル、飲食店、医療施設、保育園、役場庁舎、住宅を徒歩で移動できる範囲に配置し、複数の目的で人が訪れる環境をつくっています。
公共施設の利用者数だけでなく、周辺施設への回遊、滞在時間、民間事業者の売上、雇用、土地の価値、住宅地としての魅力まで含めて考えています。
施設単体の収支ではなく、複数の施設が相互に利用者を呼び込むことで、エリア全体を持続させる構造です。

町有地を長期的な経営資源にする
オガールでは、町有地を単純に民間へ売却するのではなく、定期借地などを活用して民間事業者に貸し出しています。
土地を売却すれば一時的な収入を得られますが、将来にわたって活用できる町の資産は失われます。
定期借地であれば、町は土地を保有しながら、継続的に賃料収入を得ることができます。
また、民間施設の整備によって周辺の価値が高まれば、固定資産税、地域内消費、雇用にも効果が広がります。
町有地を「処分する財産」ではなく、「長期的な都市経営資源」として捉えている点は、横浜市の市有地活用を考える上でも重要です。

数字に表れた成果
資料によると、オガールエリアの年間来街者数は、平成24年度の約65万人から、平成30年度には約104万人まで増加しました。
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた時期を経て、令和6年度は約86万人となっています。
令和6年度のエリア内事業者の売上合計は約16億6,000万円、役場職員を除くエリア内の従業員数は289人です。
未利用地の活用、周辺地域への民間投資、地価の上昇、雇用の創出、町外からの来訪者増加など、複数の効果が生まれています。
一方で、来街者数や施設利用者数だけで長期的な成否を判断することはできません。
建物の修繕や更新、テナントの入替え、借入金の返済、民間事業者の経営状況、地域住民にとっての利便性などを、今後も継続して検証する必要があります。
以下は、プロジェクトの実績と、効果が示されたものです。

横浜市に生かすべき視点
1.立地条件と市場性を見極める
オガールの成果は、PPPという手法だけで生まれたものではありません。
紫波町が盛岡市と花巻市の間に位置し、周辺30キロ圏内に約60万人の人口が存在するという条件があります。
横浜市でも、行政区の人口だけでなく、鉄道沿線の移動、周辺区や近隣自治体からの流入、昼間人口、商圏などを踏まえて事業性を判断する必要があります。
2.建物より先に、運営と需要を考える
公共施設の規模や配置を先に決めるのではなく、誰が利用し、誰が運営し、どのような財源で維持するのかを先に整理する必要があります。
建設費だけでなく、将来の修繕、更新、運営まで含めて計画することが重要です。
3.外部の専門性を使いながら、行政に能力を残す
横浜市の大規模事業では、専門コンサルタントの支援は必要です。
一方で、事業の根幹となる判断まで外部に依存すれば、職員の能力や組織としての経験が蓄積されません。
発注者として行政が事業を理解し、判断し、説明できる体制をつくる必要があります。
4.公民連携を担う人材を育てる
PPPには、不動産、金融、建築、法務、地域調整など、幅広い専門性が求められます。
民間事業者や金融機関と対等に対話できる職員の育成、専門人材の登用、人事交流などを検討する必要があります。
5.合意形成に時間と人員をかける
約200回に及ぶ住民説明は、オガールが一部の専門家だけで進められた事業ではないことを示しています。
公民連携や公共施設再編では、効率性だけでなく、住民に対する説明責任と対話の積み重ねが欠かせません。
6.施設単体ではなく、地域全体で考える
図書館、区役所、スポーツ施設、子育て施設などを個別に整備するだけでは、地域全体の回遊や価値向上につながらない場合があります。
商業、医療、住宅、交通、公園などと結びつけ、地域全体でどのような効果を生み出すのかを考える必要があります。
7.横浜では地域ごとに異なる手法が必要
紫波町と横浜市では、人口規模、地価、交通環境、行政組織、市場規模が大きく異なります。
オガールの施設構成や事業スキームを、そのまま横浜市に当てはめることはできません。
都心臨海部、郊外住宅地、工業地域、駅周辺など、それぞれの地域特性に応じて、PPP、市有地貸付け、施設の複合化、エリアマネジメントなどを使い分けることが必要です。
まとめ
オガールプロジェクトから学ぶべきなのは、特徴的な施設やPPPの仕組みだけではありません。
立地条件と市場性を見極め、事業を担う人材を確保し、行政内部に能力を蓄積し、専門家や金融機関と連携しながら、地域との対話を重ねてきた一連の過程に本質があります。
横浜市においても、市有地活用や公共施設再編を、単なる建て替えや財産処分として考えるのではなく、地域の将来像、民間需要、行政内部の人材育成まで含めた都市経営の課題として捉える必要があります。
今回の視察で得た知見を、今後の公共施設再編、市有地活用、駅周辺や郊外部のまちづくりに生かしてまいります。

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最後までご覧いただきありがとうございました。
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柏原すぐる

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